【大相撲昇進伝達式の面白口上】
大相撲の儀式の一つに『昇進伝達式』と言うものがある。大相撲の番付編成会議で新横綱、新大関が誕生した場合に、使者が当該力士のもとへ(相撲部屋)へ出向きその旨を伝える儀式のことである。
TVニュースで放送されるご存知の一幕である。相撲部屋で、昇進力士、親方、親方の妻が使者を迎え、使者から昇進決定の口上を言い、それに対して力士は返答し決意表明を述べる場面である。
この伝達式。数日前には報道で既に皆が昇進決定を知るところで、使者(伝達担当者)を迎える部屋の方でも、使者がいつ来ても良いように万全の態勢を取っているのである。儀式とは言え、芝居がかった白々しい一場面である。
儀式の流れの最も重要な昇進力士の決意表明である「口上」で儀式は終了するが、その後に部屋の「ちゃんこ鍋」を囲んで、使者を囲み御神酒で部屋の全力士でお祝いをする『陰の儀式』のシーンは報道されない。満員御礼鉄の垂れ幕の内側報道はタブーである。相撲協会の金庫内の積立金と同じで、闇に包まれている。
一時、四文字熟語を口上に盛り込んだことが流行した。若貴時代だったと思う。ニュースで聞いた時は驚きだった。それまでは、決まりきったシンプルな口上内容だったのに、突然、どこからか引っ張りだしてきたのか、聞いたこともない難解な四文字熟語であった。説明を受けないと意味不明で全く記憶に残らない四文字熟語であった。決意表明としての「口上」であるからには、恰好などつけずに率直な自分を表して欲しいものである。
魁傑(かいけつ)と言う力士がいた。大関から陥落し再度の大関復帰で昇進伝達式を受けている。その時の「口上」はと言うと「謹んでお受けします」と述べただけであった。後日、その時のことを、大関から陥落し大関の名を汚してしまい、何も言葉が見つからなかったとの話を聞いた時、魁傑の人間性が伝わってきて、泣けてしまった。言いたいことはあるが、言葉にできない深い意味があったわけである。
難しいことを言う必要はない。素直に思っていることを言えばよいと思うのだが、何せ、ニュースで放映されるのでそこは難しいところである。「謹んでお受けいたします。カド番を迎えないように、日頃の稽古に精進いたします」などと消極的なことは言えない。儀式であり、国儀である。
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