【「雉(きじ)撃ち」と「お花摘み」】
便器の進化には驚かされる。ウオッシュレットは当たり前になったが、用を足し腰を持ち上げた途端に自動で水が流れる機能までつくようになった。更に、その上のクラスになると、トイレに入って出るまで全て自動になっており、便器に一切手を触れないで用を足すことが出来る機種まで存在する。
オート洗浄の便器を取り付けて4年ほどになる。但し、便器の蓋部の開け閉めは手動である。用を足した後、ボタンを押して水を流す手間はそれ程面倒なことではないが、手間いらずで自動で水が流れる機能は有り難い。あまりに便利な機能も、時として「慌てふためく」こともある。その様子を川柳で一句。
『オート洗浄採便全て持ち去られ』
健康診断で提出する検便の採便時に、ついうっかりリモコン操作でオート洗浄機能をOFFにしなかったばっかりに、きれいさっぱり持ち去られ採便出来なかった一幕を読んだ川柳である。何せ、年に一度の健康診断で「ついうっかり」である。
「雉撃ち」「お花摘み」は、登山用語で『排泄する行為』の意味で、「雉撃ち」は男性、「お花摘み」は女性を指している。良く言ったものである。日本人の情緒ある素晴らしい言葉の表現だ。
「例え」を言い表した言葉としては素晴らしいが、現実問題登山者の排泄物の処理は、ゴミのポイ捨て同様マナーが相当悪いことを雑誌で知った。登山の装備品・急の天候悪化・熊に遭遇しない為の対応などは、かなりしっかりしたマニュアルが出来ているが「雉撃ち」「お花摘み」「ゴミの持ち帰り」の説明は、軽く流しているような気がする。
最近は、本格的な登山からファッション登山まで山岳愛好家は多く、テレビでの放映も結構見かける。綺麗な山景色ばかりに見とれているが、そんな山での排泄物処理は地球温暖化対策と同じくらい世界的に重要な環境問題のようである。
エベレストは現在、最悪の環境になっているらしい。エベレスト征服ドキュメンタリー番組を見ていて、自然の厳しさとの戦いと雄大な景色の内容に感激するが、その登頂の陰にまつわるエベレストのゴミ処理、排泄物処理についての話題・解説などは全く聞かない。
通常エベレスト登頂は、何十名かのチーム(登山隊)で挑戦する。徐々に身体を環境(標高)に適応させながら、数ヶ月かけて頂上を目指すわけであるが、その数ヶ月分の排泄物となると、かなりの量になることは想像できる。
心ある登山隊は、簡易的なトイレを設置し専用タンクに溜めておき、後日費用を払って専門業者に処理を依頼するとの事であるが、マナーの悪い登山隊も当然いるわけで、排泄物を放置状態にしている。エベレストの環境において、排泄物を分解する微生物は存在しないため、地面に放置された排泄物は腐ることなく、半永久的に残って自然には帰らないということになる。
ところで、エベレストのあの標高で排泄物専用タンクの処理業者は麓(ふもと)まで、どのような方法で運搬するのだろう。ヘリコプターを使用するのだろうか。興味あるところである。
生まれて死ぬまで「排泄物」から逃れられない。その割には、公に語られることが少ない。冒険家や研究者たちは無人島とかアマゾンとかに長期間、冒険や調査に出かけるが肝心の「排泄物」については、何一つ触れていない。発表・報告する必要が無いのでなく、受け手側としては興味のある一つなのである。その様な思いを持っていた筆者に、冒険家の植村直己は答えてくれた。
植村直己 著『極北に駆ける』(山と渓谷社)の中で「排泄物」のことが語られている。南極大陸の犬ぞりによる単独横断を行うため、世界最北デンマーク領グリーンランドのエスキモー集落で1年間を過ごした中で次のようなことが記されている【・・・・入口のわきには小さなバケツが置いてあり、目を刺すような異臭がそこから立ち上っていた。・・・・そのバケツはエスキモーの便器だったのだ。はじめて部屋にはいったとき、プーンを鼻をついた糞尿の臭いを、私は生肉のせいだと思っていたが、発生源はこのバケツだったのだ。】
但し、そのバケツ便器の排泄物を処理する方法については何も記されていない。極寒の地エスキモー集落もエベレストと一緒で、排泄物を分解する微生物は存在しそうもないように思えるのだが。
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