【死亡記事】

  新聞に掲載される訃報記事(死亡記事)が昔から好きで、出張・旅行先で地方紙を読む時も死亡記事には目を通すのが癖になっている。有名な俳優とか著名人の死亡を知ることが目的ではない。紙面の下段片隅に出ている僅か数行の記事に、全く知らない亡くなった人物像を勝手に作り上げることが面白い。

 死亡記事は、ある程度のテンプレートを使用した共通の記載になっている。故人の氏名・死亡日時・享年・死亡場所・死亡時の肩書と言った基本的な情報があり、場合によって死因・故人の簡単な経歴などが加えられる。

 遺族の依頼で有料広告として掲載されているものは好きではない。想像が膨らまないので面白味はない。広告記事は大体が会社関係(社葬)の場合が多く案内文になってしまう。やはり死亡記事は、個人的な記事に限る。

 社葬の場合、目的は主に葬儀日等を知らせるだけのものである。『弊社代表取締役会長 腹黒 伝衛門儀(69歳)は5月5日午後10時21分永眠いたしました ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでお知らせ申し上げます なお密葬の儀は近親者にて相済ませました 追って葬儀は合同葬をもって左記の通り執り行います 誠に勝手ながら御供花のさいは花祭壇に使用させていただきます 葬儀委員長 鬼瓦 権蔵』と言う具合のお知らせである。

 それが、個人の死亡記事になると『片倉 政宗氏(かたくら まさむね=自営業)5日夜死去、69歳。通夜・葬儀は遺族の希望で明らかにされていない 喪主は妻、和子さん 葬儀は近親者だけで行い後日、「偲(しの)ぶ会」が開かれる予定 片倉氏は今でこそ土地の名士であるが、かなりの苦労人で一代で賃貸マンション・月極駐車場経営などで、かなりの財を成した人物である 従業員のA氏によると、60歳ごろから愛人にマンションを買い与え、週に1~2度通い詰めていたらしい 会社経営による事件の線は無かったが周囲の話では、死因が腹上死だったこともあり家族としては内々に葬儀を行いたかったのでは、とのもっぱらの噂である』と言う感じになる。かなり文章に肉付けしたが、本来であれば土地の名士であるからには、死因である腹上死は公にはしないのが普通である。

 紹介したい1冊の文庫本が手元にある。「私の死亡記事」文藝春秋 発行(2004年12月10日 第1刷)が面白い。単行本は2000年12月に出ている。

 20年前であるから、既に亡くなった人もいるが、当時各界で活躍していた人に、一生を終えた人物として本人に自分を書いてもらおうと企画したもので俳優・作家・プロスポーツ選手・大学教授などなど総勢114名の寄稿である。

 皆共通しているのは、面白おかしく自分を表現しているが、それが今まで知らなかった本当の人間性のような気がした。今まで生きてきた自分を見つめて自分で書き上げた『死亡記事』である。この本の様な記事が新聞紙上に掲載されたら毎日の朝刊に目を通すのが待ち遠しくなること間違いない。おすすめの一冊である。