【『ラーメン末広本店』のカツ丼と冷やし中華】

 カツ丼の魔術。犯罪者は取り調べを受け、食事にカツ丼を出されると、大体は罪を認め洗いざらい犯行を認めてしまうと言われている。取り調べを受けた経験が無いから分からないが、もしその様な状況になってカツ丼を目の前にされたら、筆者は聞かれもしない余計な事まで話してしまいそうである。取り調べを受けなくても、無性にカツ丼を食べたくなる時がある。

 カツ丼が食べたくなったら『ラーメン末広本店』と決めている。『ラーメン末広本店』はJR仙台駅西口から徒歩5分位の場所にあり、ラーメンは勿論のこと中華料理が主の店であるがどういうわけかカツ丼・カレーライスもメニューにある。元々、当店は仙台では歴史あるラーメン店であるがメニューの種類と店内の雰囲気から大衆食堂の雰囲気である。

 大衆食堂的なもう一つの雰囲気がある。食券購入システムだ。最近は、人件費削減のため自動食券発売機をいたる所で見かけるが、この店では銭湯の番台と同じように店に入ってすぐ入口で食券を購入するのである。ヒトが食券を販売していたのは、それこそ二昔前のデパートの大食堂だ。入口のショーケースに並んでいる見本も多く食事をする場所も広かった。兎に角、ジャンル関係なく和食から洋食・中華まで何でもメニューが揃っていた記憶がある。

 『ラーメン末広本店』の番台には、年季の入ったおばあちゃんが構えていて、位置的にも見張り番でもあり厨房への司令塔にもなっている。筆者が感心するのは、あの歳でよくも勘定を間違えないものだといつも思っている。しっかりしたヒトである。お釣り計算は、ソロバンも電算機もなしで暗算で計算している。筆者にはとてもできない芸当である。もしかしてお釣りを間違えていても、お互い間違に気づいていないだけかも知れない。

 店内にカウンター席はない。二人掛けと四人掛け用のテーブルが配置されており、六~七人の団体が入店するとテーブルを移動しつなぎ合わせて六人掛けとか八人掛けの席を作ってくれる。ウェイトレスと呼ぶよりは「女給」と呼ぶに相応しいいつ行ってもパートの2~3人のおばちゃんが働いている。

 そろそろ、冷やし中華の時季になった。季節限定で、これもカツ丼同様『ラーメン末広本店』の捨てがたいメニューである。

 瓶ビールと冷やし中華がテーブルに並び、その後ろの壁には『冷やし中華はじめました』の貼り紙を想像してしまう。記念撮影をしたいところだが、恐らく食券売り場の「眼」が気になってシャッターを押すことができない気がする。