【犯人捜しの「指紋」・印鑑代わりの「指紋」・デザインにもなる「指紋」】

小説家、ノンフィクション作家である佐木隆三(1937年4月15日~2015年10月31日)の本を読みたくなった。新型コロナウィルス拡散で外出を控えた春分の日の連休。時間はたっぷりあり充分楽しめた。

佐木隆三と言う作家 
 佐木隆三の作品の面白いところは、犯罪者当人はもちろんのこと、関わった周囲の人の人物像までも浮き彫りにするところにある。実際に、幾度となく刑務所に足を運んで犯罪者に面会し、更に裁判所で毎回傍聴し作品を仕上げている。凶悪犯が事件を起こすまでの過程を取材し冷静に見つめ、新聞・週刊誌等の表面的な事件内容ではなく犯罪者の人間を描いているところに惹かれてしまう。

 事件によっては、犯罪者が事件を犯した気持ちが何となく分かる感じになる時がある。。もう一つ、いつも思うのは、犯罪者の優しい一面を見ることである。それは両親を思う気持ちである。正に、いたらいたで煩い、いないといないで寂しいのが母親の存在というやつである。

個人識別「指紋」 
 犯罪行為に切っても切れないのに「指紋」がある。犯罪小説では、最後の切り札として動かぬ証拠となるのが「指紋」である。福田和子と言う殺人犯罪者がいた。15年間の逃亡生活を送り時効直前に逮捕されるが、決め手となったのが「指紋」である。佐木隆三の作品「悪女の涙」を読み返した。福田和子は逮捕されることは予感しており、おでん屋でビール瓶に故意に指紋を残し逮捕されることになる。おでん屋のママと通報者の懸賞金250万の使い道など、ニュースでは知り得なかった人間の性を見ることができる。

 個人を特定するのに、指紋で判別する方法が昔から用いられてきた。「同じ指紋の人間はいない」と言う定説から、犯罪捜査時に、残された指紋で犯人を特定することでのイメージが強いが、最近では、ご存知の企業における入退出時の認証、銀行のATMでの暗証番号入力との組合せによるセキュリティ対策として用いられている。 

 指紋と言うと、どうしても犯人捜しと結びついてしまうが、個人を特定する「印鑑代わり」にも重宝がられている。あの交通違反切符の「指紋印」である。18歳で免許を取得し、この歳になるまで何回、指押印をしただろうか。

印鑑代わりの「指紋印」 
交通違反の反則切符は、決まって左手人差し指で押させられる。筆者は右利きである。左利きの人は、右手人差し指で押すのだろうか。つい最近まで、あの時の「指紋印」は、犯罪を犯した時の照合のためにマイクロフィルムで保管ファイルされているものとばっかり思い続けていた。

 つい最近、反則切符の「指紋印」は単なる印鑑代わりで、何ら照合のためにファイルされてはいないことが分かった。安心して良さそうである。嬉しくなったので、心当たりのある人に情報としてご連絡まで。

デザインとしての「指紋」 
 指紋を見つめていると、不思議な感じになってくる。その虜になったデザイナーがいる。グラフィックデザイナーの粟津潔(1929・2・19~2009・4・28)である。粟津のデザインの根底にあるのは「指紋」だ。かなりの拘りを持っており、指紋の紋様を何でもデザインにしてしまう。『粟津潔デザイン図絵』(田畑書店発行)に収められている作品の中から。

 指紋は、モノクロに限る。黒の代わりに「朱」を使用しても良いが、交通違反時の反則切符の印鑑代わりを連想してしまう。テスト的に「左手人差し指」で押してみた。これがその指紋である。

 ついでに「右手人差し指」も押してみた。